ywagashiのブログ

徒然なるままに

6月に読んだ本

もう2020年も折り返し。時は飛ぶように過ぎていく。

 

・カント入門講義(冨田恭彦/著)

 カント哲学(超越論的観念論)の入門書。時間・空間は外界に存在するのではなく、アプリオリに備わった感覚の形式だとする議論が興味深かった。認識は理性によって対象が分析される結果、現象として生じるであって、物自体の写しではないから、むしろ認識に対象に先立たせることが可能(まさにコペルニクス的転回)なんだけども、そうすると認識の普遍性が危うくなる。そこで人間相互を結びつけるよすがとなる一つが、アプリオリな総合判断とやらなんだろう。たぶん。

代替医療解剖(サイモン・シン、エツァート・エルンスト/著、青木薫/訳)

 鍼灸ホメオパシーのような代替医療の欺瞞を白日の下にさらす本。信頼に値する研究・調査結果を援用しつつ、あくまで中立的な立場から真実を探ろうとするスタンスが素晴らしい。結論としては、代替医療のほとんどは完全なまやかしに過ぎず、プラセボ以上の効果は認められないとのこと。そりゃそうだ。だが現実には、代替医療に騙されたばかりに救えたはずの命まで失う人がいる。では政府はどういう了見で、この悪しき代替医療が蔓延るのを等閑視しているのだろう。

・オーデュボンの祈り(伊坂幸太郎/著)

 これが処女作とは恐れ入る。さすが伊坂幸太郎といった感じ。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を予見できなかったのか。ファンタジックな要素を含んだミステリー。見事な結末に膝を打つ思いだった。この作品の根底に見える勧善懲悪的な意識は、他の多くの伊坂作品にも通じているように思う。

・闘争領域の拡大(ミシェル・ウェルベック/著、中村佳子/訳)

 自由主義社会は無慈悲な闘争の領域でもある。貧富格差の著しいのと同様に、恋愛においても明確な勝者と敗者がいる。救いようのないことに、敗者の原因はたいてい生来的なものである。最後までもがき続けたティスランは、決して報われることはなく、悲劇的な最期を迎える。主人公は世間に冷笑的な態度を向け、斜に構える一方で、どこかで愛への執着が拭えない。二人の脱落者に投影される、自由の代償としての不自由。開放的に思われた世の中は実は非常に虚無的であるな、と。自分には耳が痛くなるような話だった。

・葉桜の季節に君を想うということ(歌野晶午/著)

 叙述トリックのジャンルで評判の作品。何でも屋を自称する主人公の成瀬が、悪徳商法業者と奮闘する物語。途中でネタが推測出来てしまったため若干興醒め。Amazonのレビューがネタバレだらけなので注意。

・意思決定と合理性(ハーバート・サイモン/著、佐々木恒男ほか/訳)

 人間による意思決定は、不確実な仮定と多様な判断基準に依っているから、完全に合理的ではありえないという主張。著者としては、経済学などで合理性な行動選択を前提することに物申したかったのだろうと思われる。最善だと思われた判断も、実際は局所的最適解でしかないのだろうけど、それでも常に視野を広く持ち、自戒的でありたいものだ。それにより偶然にせよ大局的最適解に到達することもある。

・人知原理論(ジョージ・バークリー/著、宮武昭/訳)

 バークリーも観念論者であったという点ではカントと同じだが、その考え方は大きく異なり、こちらは非常に宗教色が強い。「存在するとは知覚されることである」この言葉に表現されるように、バークリーは精神の実在を重んじる一方で、物質の存在を否定し、世界は観念のみによって構成されるものとした。物質に代わって、世界の存在を保証してくれるのが、ほかならぬ神様である。バークリーは聖職者であり、このような発想がでてくるのも敬虔なクリスチャンならではだろう。一部で彼は独我論者のレッテルを張られ批判に晒されたわけだが、存在のよりどころを絶対者に求めたその思想には吟味の価値があり、実際、デカルト、ロックに端を発す観念論の系譜に確かな足跡を残している。
 視覚新論も文庫で出してほしい。

・死刑肯定論(森炎/著)

 死刑の究極的な論拠を探る本。西洋哲学・社会学の思想や実際の判例を交えて、死刑にまつわる多角的な議論を行っている。見せしめ、排除すべき悪性、国家の安全の確保、復讐の代行など、死刑には様々な捉え方があり、これらを総合した結果現在でも日本は死刑制度を保持している。死刑を認める制度下に暮らす以上、一人一人それに対し何らかの明確な意見を持つべきことは確かだと思う。そしてこの本は自ら死刑について考える材料を提供してくれる。

・言葉とは何か(丸山圭三郎/著)

  ソシュール言語学のいろはが書いてある。言葉は単なる事物の名前でも、概念を指す記号でもなく、認識そのものであるという。確かに、言葉が無くなれば人間の思考能力は大幅に失われることが想像できるように、言葉は人間の思考を規定している。一方で、人間の新しい観点が言葉を生む。社会的合意からコノテーションとして言葉の意味が付与されることもある。言葉の世界は実に奥が深い、これぞ灯台下暗し。この本で終わりにせずより深い理解を求めて勉強したい。

狼と香辛料〔15~17巻〕(支倉凍砂/作)

 ラノベ。たまに読みたくなる。ロレンスとホロ、最後のピンチから感動の大団円を迎えるまで。振り返れば初めから二人はお互い一途だったと思う。脳が回復する。Spring Logも、狼と羊皮紙も、続編は全然読めていない。今ならAmazon Unlimitedの対象みたいだけど、きちんと金を払って読みたいと思う。狼と香辛料VRなんてのもあるらしく、かなり興味がわいている。

 

ちくま学芸文庫ばかり読んでんな。
印象に残ったのは人知原理論、人に勧めるならオーデュボンの祈り。

 

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)