ywagashiのブログ

徒然なるままに

2021/4月に読んだ本

最近は時間の進みが凄まじく速い。1分が40秒くらいに感じられる。

 

・群衆心理(ギュスターヴ・ル・ボン/著、桜井成夫/訳)

群衆心理について系統的な分析を行った、おそらく初めての書。歴史観察に基づく、帰納的な考察から、群衆の衝動性、被暗示性、凶暴性、保守性といった諸相が明らかにされる。その背景には、市民革命を推進し政治権力を握りつつあった市民階級への危機感があり、群衆心理のネガティブな側面が強調される嫌いがあるにせよ、ル・ボンの議論はつとめて中立的な観点から進められているように思う。その透徹した洞察には、社会心理学の嚆矢とするに相応しい輝きがある。

・FinTech イノベーション入門(西祐介ほか/著)

FinTechとは、金融と技術を掛け合わせた造語であり、ICTと金融サービスの融合による革新的な動きを指す。本書は、そのコア技術やビジネスとの関連、課題や展望について広く浅くカバーした一冊である。実務を意識しているのか、Pythonによるデータ分析の実装例なども載っており個人的には参考になった。暗号通貨が世間を賑わしていることからも予期できるように、FinTechは今後も存在感を高めていくだろう。時代の波に乗り遅れないようにしたい。

・重力とは何か(大栗博司/著)

難解な相対論、超弦理論について一般向けに噛み砕いて説明した一冊。著者が第一線で活躍する物理学者ということもあり、ホログラフィック原理のような高度な内容にも踏み込んでいる(適当)。とにかく最先端の物理学が何か得体の知れないものと向き合っていることは理解できた。理論物理学者とは何とも酔狂な人たちである。興味深いことに、著者は宇宙論の哲学的側面にも言及しており、いわゆる人間原理に安易に頼らず必然性でリンクした理論構築の意義について述べている。自分は人間原理の熱烈な信奉者ではあるが、著者の物理学者としてのその姿勢には大変な感銘を覚えた。

ベーシック・インカム(原田泰/著)

社会保障財政が逼迫するなか、話題に上ることも増えたベーシックインカム(BI)。その論点を整理する目的でこの本を手に取ったが、大はずれを引いてしまったようだ。著者は、単純なバラマキ政策によって、恣意性の入り込む余地を無くし、捕捉率の問題を回避すると同時に、行政コストを削減する=BIのメリットと考えているようだが、そんなのは分かり切ったことである。重要な論点である(と僕は思っている)、JGPとBIの比較だとか、社会保障の簡素化の影響だとかには全く触れられず、代わりに本筋とは何ら関係ない話題に貴重な紙面を費やす一方で、容易に想定される数々の反論に対する回答は投げやりで、肝心の試算も極めてお粗末なものである。BIの構想自体は面白いと思うが、推進派の学者がこの様子では到底、諸手を挙げて賛成する気にはなれない。

 

近頃は更新が遅れ気味で慙愧の念に堪えない。そもそも読書記録をこういうオープンな場所に残すのは継続のためであるからには、簡単な理由で更新を止めるわけにはいかない。余裕が生まれたら、資格か思想か投資かあるいは他の何かについて記事を書いてみようかと思っている。

群衆心理 (講談社学術文庫)

群衆心理 (講談社学術文庫)